並盛中学校。
そこは、とある1人の少年の手のひらの上にあるような状態に近い。
というか、並盛町全体がその少年の手のひらの上にある気がしてならない。
並盛中央病院の院長に頭を下げられたり、並盛神社での祭りを仕切っていたり――なにより死体を処理できるってなんだ。そんな何もかもが謎というか、恐怖に包まれている少年。
それが雲雀恭弥。並盛中の風紀委員長にして、並盛中の不良どもを束ねる――の最も苦手とする存在だ。
「こっ、ここまでくれば何とか安心かな……」
屋上へと繋がるドアを開け、少々焦った様子でそう言葉を洩らしたのは。
階段を駆け上ったせいで少しあがってしまった息を整えながらは警戒しながら屋上へと足を踏み入れた。休み時間に不意に感じ取った嫌な予感。
それが意味するものは基本的に限定されていた。治安のよい日本。
しかも、その中でも子供たちが多くいる学校というものは、
子供たちを守るために外部からの侵入者に対して警戒が厳しい。
要するにの嫌な予感の原因は外部からの侵入者では絶対にないということ。
ならば、原因は内部の人間に限られるわけだ。は中学生ではあるが、裏社会――マフィアの世界でも名の知れ渡った殺し屋。
そんな彼女に「嫌な予感」を感じされる人間などそう多く存在するわけもない。
故に、この「嫌な予感」がに告げるものは――
「ああぁあ…、雲雀さん諦めてくれるといいけど……」
雲雀恭弥の襲来だった。
エモノたちの会話
並盛中の屋上。それは二つ存在している。
どちらも生徒が自由に使用していいのだが、
一般性とたちはある一方の屋上を絶対に使用することはない。理由は非常に単純。その屋上は雲雀のお気に入りの場所であり、
そこで雲雀を対峙しようものならば、完膚無きまでに本当にそれこそ咬み殺される。
この事実は並盛中の常識となっており、最近この並盛中に転向してきたも、転校初日にツナから聞いていた。はじめはそれほど気にかけていた情報ではなかったが、
今となってはにとってこの情報は非常にありがたいものだった。キョロキョロとあたりを見渡しながらは屋上を進む。
ふと、向かい側の屋上――雲雀の屋上が目に入り、ドキドキしながら様子を伺ってみるが、
雲雀らしき影――というか、人影自体が一切無かった。とりあえず危機を脱せたように思えたは、「はぁ〜」と安堵の息をつく。
授業をサボることにはなってしまったが、
雲雀に会うくらいだったら授業の一つや二つサボってしまっても問題は何一つとしてない。
中学生の授業など、にとってはわざわざ学ぶまでも無い既存の知識なのだから。
「(でも、あんまりサボるのはよくないよね…)」
中学は義務教育。
中学生と呼ばれる年代にあるが、この日本においては義務とされている中学校生活を放棄する。
それはどう考えてもよいことではない。
雲雀との対峙を回避するそのたびに授業をサボっていては
、不良――とまでは思われないだろうが、問題児と思われてしまってもしかたないだろう。この並盛中での学校生活を楽しいものにしたいとしては、そんなことになっては堪ったものではない。
しかし、どうにもこうにも、相手が悪すぎた。
「うぅ〜…どうすれ――ぅわぁっ!?」
真剣に雲雀への対策を考えながら歩いていた。
そのせいで足元にあった障害物に気づかなかったようで、見事に転んでしまった。突然すぎる出来事に一瞬わけがわからなくなったではあったが、
すぐに冷静な判断力を取り戻したようで、自分が躓いた障害物に目をやった。
「ぅえっ!?ちゃん?!」
「えぇ〜……?………あえ〜?ちゃん……??」
が躓いた障害物。
それは物ではなく、ズタボロになったの友人――だった。酷い姿になっているに、慌てては大丈夫なのかと問うと、
は力の篭っていない声で問題ないことを告げる。
しかし、の姿はどうみても問題がないようには思えなかった。と同様にも裏社会の人間で、それなりの実力を持っている存在。
そんな彼女がここまでの傷を負わされている――まさかとは思いながらもは浮上した懸念をにぶつけた。
「この傷、一体誰に…!?」
「ぇ……いや、あの…雲雀さん……」
「!!」
ピシィ!と一瞬にして固まる。
過剰ともいえるこの類の反応を端から予期していたのか、
は苦笑いを浮かべたが、を落ち着かせるように肩を叩いて「大丈夫だよ」と言葉をかけた。
「やりあってたの……20分くらい前だし。雲雀さん、もうこの近くにはいないよ」
「そ、そ、そ、そっかぁ……!」
時計を見ながら言うの「雲雀はいない」その言葉を聞いたは安堵の息をはいた。おそらくの言葉に間違いはない。
獲物――戦いの相手の役目を果たせないほどに消耗したに対して、
雲雀が執着するわけがないのだから、ここに雲雀が留まっている可能性はきわめて低いはずなのだ。がホッとしてていると、不意にがクスリと笑った。
「…なに?」
「いや、ホントちゃんは雲雀さんが苦手だなーと」
「うぅ〜ん…、雲雀さんが苦手というよりは、不良が苦手なだけで……」
「マフィアは大丈夫なのに?」
「ま、まぁ、色々あるのそこは」
「あはは」と苦笑いを洩らしながらがそういうと、
はの言葉に同意するように「あるよねー色々ー」と言って笑った――
が、笑ったことによって、体に負った傷が痛んだらしく「ぅぐっ」と情けない声を洩らした。
「ほ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。体が丈夫なことが唯一の取り柄だから」
心配そうにの顔を覗き込むに、は笑顔を見せて問題ないことを告げる。
しかし、その笑顔は完全に歪んでおり、やはりどう見ても「大丈夫」とは思えなかった。かといって、がのためにしてあげられることなど心配くらいなもの。
保健室に運んで怪我の手当てをするのもひとつの手なのだが、
如何せん並盛中の保健室には女好きの酔いどれ保険医――シャマルがいる。
そんな別の意味で危険な要素を持っている存在のところに手負いのを預けるなど危険極まりない。
そう思っているは、この場所でを見守るのが最良の判断ではあった。やや苦痛を色を見せながらも、
ぼーっとしているを見ながらは不意に口を開いた。
「…ちゃん、どうして雲雀さんの前にわざわざ出て行くの?
ちゃんなら逃げ切ること――できるよね?」
常々思っていた疑問。それはが自らの意思で雲雀と遭遇――というか、戦いの相手をしていることだった。一度は彼女も雲雀と同じバトルマニアなのかとも思ったが、本人の口からでてくるのは愚痴ばかり。
要するに、雲雀の相手をすることは彼女にとっては本位ではない。
本人曰く、と同じように雲雀との遭遇を避けられるのであればいくらでも避けたいらしい。
が、その主張に反しては毎度雲雀の相手――というかサンドバッグになっては、
ボロボロになってたちの元へ戻ってきていた。心配半分、好奇心似たなにか半分のの視線を受けたは「あははー」と乾いた笑い洩らすと、
諦めた様子での疑問に答えを返した。
「ちゃんの言うとおり、雲雀さんから逃げようと思えばできるとはおもうんだけど……」
「…ど?」
「……仕事…だからねぇ〜…」
の回答を聞き間違いかと思ったは思わず「え?」と聞き返してしまったが、
どうやら聞き間違いでもなければ、の悪い冗談でもないようで、
にとって雲雀の相手をするのは仕事の一環らしかった。
「うちのトップと雲雀さんが仲良くてね。雲雀さんのご機嫌取りのために私が『お世話役』という形で提供されてるんだよね。
……だから、雲雀さんの気紛れにお付き合いするのも――仕事のうちなんだ…」
「……も、物凄いことさせるんだね…。のところのボス…」
明後日の方向を見ながら言うの言葉を聞きながらは自分のところのボスを思い出す。
の属すファミリーのボスもすごいが、のところのボスとは違う意味ですごいだけで、
こんな物凄い――というか無茶苦茶な注文はしてくる人物ではない。どんな人物なのだろう?――と、一瞬は考えたが、雲雀と仲良くなれるような人物なのだから、
9割方まともな人間ではない気がにはした。
「……そのファミリーって抜けるの難しいの?」
「うーん、難しいっていうか――無理だね。
かなり偏狭の地まで行かないと逃げ切れないと思うよ。情報網広すぎるから」
「…身をもって知ってるもんね、ちゃんは……」
「広すぎる情報網の中核にいるわけだからね…っ!」
苦笑いを浮かべながらを慰めるように肩を優しく叩くに、は半分やけくそな笑顔を見せる。
そして、自分を励ますかのように言葉を並べた。
「それに、雲雀さんの相手をするよりも大変な仕事だってあるし、これはまだいい方だと――」
「――へぇ、じゃあまだ君は使えるんだ」
「「―――ッ!!?」」
との背筋に走る冷たいもの。
それは浅くも深くも考えずとも、原因はわかっている。
ただ、2人は恐怖のあまりその事実を認めたくないだけで。
「………」
「………」
お互いに顔を見合わせると。
確実に2人を待ち受けている現実はとても過酷なものだろう。
だが、その現実を無視できるほど2人は強くない。
どんな状況であろうと、とりあえずはこの現実を受け止めなくてはならないのだ。不意に覚悟を秘めたの瞳がの目に飛び込んだ。
ややあってからも覚悟を決めたようで、力強く頷くと2人は一斉に上を見上げた。風を受けてなびく黒い衣――それは学ランというやつで。それを着ている人物は――
「さぁ、はじめようか」
言うまでもない人物なのだった。
■いいわけ
長々お時間をいただいてしまいましたが、やっとこ仕上がりました!翅水様宅流為さんをお借りしての共演夢です!
何度土下座しても足りなぐらいお時間をいただいてしまいましたが、本人的には納得のいく作品ができました!
こんなんですが、翅水様にも楽しんでいただけたならとても嬉しいです。この作品は、翅水様のみ転載可です。